皆様がお持ちの資料のなかに、現在とは明らかに異なる「くねくねした」字体で書かれているものはございませんか。この「くねくね」した字体、「パズルを解くみたいで読んでいて楽しい」との声を聴く一方で、「何が書いてあるのかまったくわからないので、見ているだけで頭がくらくらする」というご意見もいただきます。おそらく大半の方は、後者の感想を抱くのではないでしょうか。本日のコラムはこの「くねくねした」字体についてお話していきます。
こうした字体は、一般的に「くずし字」と呼ばれていて、主に戦国時代から戦前までの歴史資料に広く使われています。ただし、一口に「くずし字」といっても時代によってその書体に変遷があるのはご存知でしょうか。
皆様がよく目にされている「くずし字」の多くは、青蓮院流(しょうれんいんりゅう)という字体で書かれています。青蓮院流とは、鎌倉時代の高名な書家であった青蓮院尊円親王(しょうれんいんそんえんしんのう)の書体を指しています。なぜこの書体を目にすることが多いのかといえば、江戸幕府がこれを公用書体としたからです。つまり、現在残されている江戸時代の歴史資料の多くは、この青蓮院流(御家流:おいえりゅうとも言います)で書かれているのです。
この書体は、一見すると非常に読みづらいのですが、①特徴ある字の形、②言い回し(候文:そうろうぶんと呼ばれています)を覚えれば読めるようになります。最近、全国各地で公文書館などのアーカイブズが主催する古文書講座が開催されていますが、初級編は必ず青蓮院流の字体を勉強することになります。
ところで、「くずし字」は時代によってかわるとお話ししています。青蓮院流は江戸時代までの古文書に使用されている字体ですが、明治以降の資料の「くねくねした」字体は何か流派があるのでしょうか。結論からいえば、明治以降は青蓮院流を基礎としつつも、「自己流」のくずし字が増えてきたということになります。
一般的に明治期以降は、江戸時代にくらべて様々な人が文字を書くようになったといわれています(異説・異論はあります)。そのため、青蓮院流の字体が正しく理解されず、自己流の書体が増えました。また、この時期には、江戸時代に使われてこなかった言い回しが頻出するようになりました。その結果、明治期以降の資料は、江戸時代の資料に比べてはるかに読みづらくなっています。なぜなら、前述した「くずし字」を読む際の法則、字形と言い回しを覚えるが通用しなくなるからです。「くねくねした」字体のなかでも、明治期以降のものは、難易度が一気にあがることになります。
社史・アーカイブ総合研究所 主任研究員 中村崇高
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