アーカイブの考察

 

健全に機能するバチカン文書館

カトリック教会の総本山であるバチカンには、図書館のほかに文書館もあります。

バチカン文書館は1612年に図書館から分離して作られました。教皇書簡の写しや会計文書、請願書など、主に公文書を保管する役割を担っています。また、この施設は8世紀から現在までの歴史的に重要な資料も多数収蔵しています。例えば、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイの裁判記録、フランス王妃マリー・アントワネットが獄中から送った手紙などです。当初はアクセス権が制限されていましたが、1881年以降は研究者が利用できるようになりました。

そして今年3月、カトリック教会の長であるローマ教皇フランチェスコは、文書館に保管されている資料のうち非公開だった1939年から1958年の文書を、2020年に研究者へ公開すると発表しました。これは現教皇の6代前、ピウス12世の在位期間にあたります。

ピウス12世は、第2次世界大戦当初ナチス・ドイツに寛容な態度をとり、ユダヤ人迫害に対して明確な非難をしなかったと批判的な評価がされています。その一方で、ユダヤ人をローマやイタリア各地の教会・修道院に保護させたとも言われ、第2次大戦期の同教皇の評価は、更なる文書での裏付けが必要でした。しかしこれまで何十年もの間、研究者が文書の公開を要求してきましたが、教皇庁は許可しませんでした。

今回の公開では、書簡や電信、演説の原稿など数十万点が対象となります。大量の文書の分析が進めば、ピウス12世への評価が変わる可能性があるだけではなく、教皇庁とナチス・ドイツとの外交交渉の過程なども、より明らかになるでしょう。

公開する文書は2006年から教皇の主導の下、アーキビストなど20人の専従スタッフが整理し、恣意的な選別はしていないそうです。膨大な資料をどのような手順で整理をしたのか、アーカイブズに関わる者としては興味深い事例です。また、負の記録となりうる文書も破棄せずにすべてを公開する姿勢は、文書管理と情報公開という文書館の基本的な機能が健全であることを示していると言えます。

 
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