アーカイブの活用

 

日本の企業はアーカイブズの意義・使い方を知らない

2016年3月17日、日本経済史の第一人者として永年、活躍された東京大学名誉教授、武田晴人先生の講演会を聴きました。テーマは「日本企業の記録管理とアーカイブズ-現状と課題-」で、主催はARMA東京支部です。先生は、これまで30社近くの日本の一流企業の社史を執筆されました。従って、日本企業がどのような記録を、どのような形で保存しているかを最も良くご存知の方なのです。先生によると、社史編纂から見る企業資料の現状は、大部分がほとんどないに等しいくらい貧困であり、これが当り前の状況だというのです。中には営業倉庫に文書を保存したり、コンピュータシステムに電子文書として保存する企業もあるが、10年等の単位で定期的に廃棄、消去される例が多いとのことです。その結果、必要な記録・資料が残っておらず、社史を作る段階になって泥縄式に資料を集めに掛るのが最も普遍的なタイプだというのです。

先生の話を聴いて不思議に思うのは、日本は世界でも有数の社史生産国だといわれながら、なぜその基になる記録・資料を大事にしないのかという、正にその点です。社史を書くための材料となる記録・資料がなければ正確な社史は書けないはずだからです。欧米では、第三者が書く創業者の伝記というものはあっても、日本のように自社が発行する形の社史はあまりないようです。その代わり企業アーカイブズという形でその企業の歴史を刻む記録・資料、さらには物資料が残されているケースが多いので、あえて社史という形式で出版する必要がないのかも知れません。言い換えると、いつでも必要ならオリジナル資料をアーカイブズで直接見ることが出来るわけです。大抵の場合、欧米では企業アーカイブズは公開されているからです。考えてみますと社史はあくまでオリジナルの原資料を基に書いた2次作品であり、あくまでも参考資料に過ぎないともいえるわけです。

要するに日本の企業はアーカイブズの意義、あるいはその使い方を知らないということが根本にある問題だということでしょうか。先生も仰っていましたが、日本企業、それから日本の社会全体が、もっと文化遺産としての企業資料の価値を知るべきだということを結論としたいと思います。

社史・アーカイブ総合研究所 代表 小谷允志

 
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