アーカイブの活用

 

ガラクタと宝物

あるテーマに沿って、書籍や資料をライフワーク的に収集している人は少なくありません。研究者や趣味人は、ことさら思い入れ深いコレクションを蓄積しているものです。しかし、これらは本人の死後、いったいどうなってしまうのでしょうか。

1996年に没した日本政治思想史の泰斗・丸山眞男氏の3万冊に及ぶ蔵書や手稿類は、東京女子大学に寄贈され、現在公開されています。2007年に亡くなった平岩外四元経団連会長・東京電力会長の蔵書約4万冊は、東電研修施設内に「平岩文庫」が新設されここに収められました。

しかし、名もなき市井の人々のコレクションは、なかなかこのようなわけにいきません。ある先生が、こつこつと集めてきた蔵書や資料を前に「私にとっては宝物だが、私が死んだらみんな紙くずになるのだろうな」と寂しそうにおっしゃっていたのが思い出されます。貴重なコレクションも多くの場合、もてあまされて、いつのまにか散逸してしまうことが多いようです。

こういった流れに歯止めをかけようと立ち上がったのが、NPO法人「名古屋レール・アーカイブス(NRA)」です。ここでは、鉄道関係の資料に特化して、個人のコレクションを組織的に継承し、活用がはかられています。鉄道趣味は奥深く多彩で、少なからぬ人が、書籍だけではなく、写真や絵葉書、チラシ、切符などをライフワークとして収集しています。

しかし、それらは、価値のわからない人にとっては「ガラクタ」に過ぎません。
同会の趣意書には、「鉄道関連資料を保存するためには、その価値を熟知した同好研究者或いは趣味者の手によることが相応しいことになるのですが、それを行うには個人では限界があるだけでなく、永続性にも問題があります」と記されていますが、まったくそのとおりです。

この問題を突破すべく、このアーカイブが設立されたのです。「鉄道関連の記録・資料類を組織的に保存すると共に、考証を経て、報道・出版機関および個人の研究者等に提供し、鉄道の持つ意義と歴史を正しく後世に伝える」という目的に共鳴して、膨大な蔵書を寄託した研究者も現れました。

財政的な問題など、さまざまな障害があることと思いますが、このような草の根的なアーカイブが、市民による市民のためのアーカイブの先鞭をつけてくれるものと期待しています。

 
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